静かな建築
2009年 02月 19日
今月の新建築に搭載された、田園調布に建つ店舗付き集合住宅。
この建物が立つ前には宮脇檀さんのVANFANが建っていて、当時はアイビーファッションに身を包んだ若者でかなり賑わっていたらしい、文化の発祥地として。
そんなとこに今度は堀部安嗣さんが建てることになる。ケヤキを残して。
堀部さんの師は益子さんで、益子さんの師は吉村順三。宮脇さんの師は吉村順三だから、うむ、何かが知らず知らず繋がり継承されているんだね。
バス停の前の待合所がそのまま建物まで延長している。
中の店舗には本をたくさん出している料理研究家(行ったら本人に会えました)の食器売り場だったり、料理教室だったり、肉屋さんだったりと、料理系で統一してました。
田園調布が時を経て、若者の建物から大人の建物になってしまったようです。
ちょろちょろと水が流れ、光の陰影を醸し出す共有廊下と度々人が乗り降りするバス停。その間の大きなケヤキが風でザワザワと揺れる。
この町の優しい感じが静かなデザインにマッチしててよかった。
こちらは二軒挟んだ隣に建つ集合住宅。2006施工。
施主は同じです。テクスチャーが同じなのですぐにわかります。
中庭を囲み、お互いの生活の断片をちょろちょろと見せながら過ごす。
最初の集合住宅でも、各住宅が共用廊下側に土間を持っていてそれが開かれている。お互いの生活(断片ではあるが)を見せるってかなり度胸がいるけど、強いプログラムをこんなにふんわりとデザインされてしまうと・・・、あ、案外行けるかも?住めちゃうかも?となってしまう・・・。
この中庭では火と水と緑を共有しながら記憶を刻んでいくようです。
なんだか堀部さんの建築を見ているとルイス・カーンが好きなんだろうなーと思ってしまいます。
そのイメージもあり、堀部さんは特別なことよりも普遍的なことに興味があるんだな。カーンが建った瞬間に廃墟と言われたように。うん。たぶん。普遍的というと、古いような目立たない感じのデザインを思うけど、でもそこにはマイナスなイメージではなくて、むしろその普遍性がそこを訪れていた人の記憶をそっと抱えてくれそうな感じがする。静かで芯が強い建築とでも言うのかな。あー何て言うんだろう・・・。
以下は堀部さんの言葉。
記憶のかけらとは目に見える具体的な物質や記念的なものではなく,誰もが共感し合える何気ないものだ。そしてどんな時代でも変わらず人の肉体に存在しているものだ。そこに私は新しく建築を創造する確からしさを感じる。
町、風景、そして建築とはそんな眠っている記憶のかけらを呼び覚まし、つなぎ合わせていくことのできる場所でなくてはならない。そして人と人とが自己の存在と居場所を確認し合うことが可能な、未来を肯定する場所でなくてはならない。
by tokup_nao
| 2009-02-19 19:42
| 建築
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