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建築設計事務所の仕事の様子と雑談を綴っています。


by 徳田直之 (Naoyuki Tokuda)
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妹島和世の『葉山の住宅』を訪れて

設計:妹島和世建築設計事務所
施工:平成建設
竣工:2010年
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オーナーの知人に招待を頂き、お邪魔させて頂きました。
この規模の住宅としては長い4年の歳月が掛かり、今はなき東京都練馬区の平成建設の施工による神奈川県の葉山にある住宅です。
竣工されてからは、度々SANAAの所員を招いた会が開かれ、オーナーともいい関係でSANAAとしても所員に体験してほしい良い建築になったことがわかります。
それくらい、この住宅には妹島さんの思い入れと理想の空間・思想が詰まっているのだと思います。

外から見ると2階か3階かわからない、3mガラス、3m鉄板、3mガラスのとてもシンプルなファサードです。それを二分するかのように鉄板の中間にスラブがあり、四隅に柱があるだけの構成。

なので中に入ると、予期せぬスケールの大きな気積に包まれます。
立っているとガラス越しに道路の行きゆく人が見え、座っていると外にある壁が視線を遮断し、開けているけど周りから遮断された居心地のいい場所であることがわかります。そして、タイルの床が、レベル差無しに内外に敷かれているので部屋が外まで広がったような感覚になります。
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内外を曖昧にする、内側の領域を外側まで拡張するなど、学生が話す(自分もその一人でした)魔法のような建築の言葉がありますが、ここにはそれが本当に起きていることがびっくりしました。そこにいると、隣の部屋に行く感覚でうっかり靴下のまま外に出てしまう。一階の部屋の行為や意識が敷地の外いっぱいに出ており、内外の境界がとても弱くなっています。
これは外部のタイル敷の部分が全部縁側なんじゃないかと思えるもので、すんなり受け入れているように感じました。
また、この外の外壁の高さがとても絶妙な高さで、現場で妹島さんが最後のタイル一個分高くするかどうするかすごく悩まれたそうです。それくらい、この外の壁には大きな意味があり内部は意外と見えません。

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また、この壁は写真からもわかるようにとてつもなく薄い。こんな薄いタイルの壁がスクッと立っていて、素材感は残したいけど重さを極限まで消したい思いが伝わります。どうやって自立してるのか不思議ですが、これは9mmの鉄板に弾性の接着剤でタイルを貼り、湾曲させる事で構造的に自立させています。熱による鉄板の伸縮があるので目地は詰めていません。当時では珍しい施工でしたが、8年経った今でもタイルが一枚も落ちていません。
もう一方の敷地境界線に立つ壁は、何とこちらは厚さ50ミリくらいのブロックを重ねています。もちろん鉄筋も入っています。他にもコンクリートにタイルを貼っている壁もあり、同じような見え方をしているタイル壁ですが、3種類の異なる構法を使い分けています。
床の目地は3ミリ前後で、これも通常のタイルの目地幅と比べるとビックリの薄さです。それも、1つ1つのタイル幅を小さくしているので、目地が通常幅だと合わないし、目地が見えないことでフローリングのような優しさが出ているように感じます。色からしても、コンクリートに近いことから素材を自然に見せようとしているかもしれません。タイルの目地が変わるだけで今までのタイルの印象が一変しています。

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もちろんですが、このタイルは1/1のスタイロフォーム模型で何回もスタディーしながら適正な大きさを決めています。色も何個も実際につくってもらい理想の色に近づけ確認します。
青木淳による武蔵野の青々荘では、中央の共用部のタイルの目地に色が付いており、図と地が反転したような操作がされています。これもただならぬタイルへのこだわりが感じられます。
西沢大良の芝浦まちづくりセンターでは、ブロックと目地の精度が怖いくらいです。これは、所員が一日中付きっ切りで職人の隣で精度の監理をしていたと聞きます。
それぞれの建築家が自分のやりたいことをディテールに込めて表現しています。
話が逸れてしまいました。

その妹島さんのタイルは内外を同じものを使用しており、内外の目地を合わせ、階段に対してもその目地が合わせてありました。とても綺麗。

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その階段から地下に下りると、そこは階段から差し込む光によってすごく明るく、地下の暗いイメージが全くありませんでした。グラウンドピアノは階段の手すりを設置する前に入れたとのことです。
1階のガラスの効果が地下の空間にも存分に発揮されています。

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1階から2階の階段も階高があるので長く、一見登るのが大変そうに感じられますが、登ってみると非常に登りやすくとても気持ちのいい階段でした。こんなに軽快なのに全く揺れない。構造的にもとてもバランスの取れた名作の階段だということがわかります。この階段もかなりの量のスタディと検証の賜物だと思います。手すりの曲がり具合も絶妙でした。

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その階段は同じ位置に地下から屋上まで連続しており、そのまま気持ちよく空に続きます。屋上を開ければ天窓になり、地下には光を落とすヴォイドとなり、この階段があることで上下階がより明るくなる重要な働きをしています。
地下から空まで連続する階段は何か大きな哲学さえも感じさせます。この階段は強く美しく、この住宅の大事な背骨のようなものに思えます。

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屋上に上る階段から2階の一部を見下ろすと、夕日がカーテン越しに当たっていました。
それを見ただけで、ドキっとしてしまう。
どこを切り取っても絵になる不思議な美しさがこの住宅にはあります。
カーテンも全部同じに見えますが、よく見るとそれぞれの場所で厚みや素材感を微妙に変えています。

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このジャスパーモリソンのグローボールの高さも妹島さんが現地で高さを決定し、カーペットの柄もタイルの色に合わせて慎重に選んでいます。

よくよく聞くとすべてが妹島さんのチューニングよって環境がコントロールされた世界でした。それでいて、そこには建築家が厳密に選んだ堅苦しさみたいなものが感じられなく、自然の気持ちよさが漂っています。
これは僕の中で大きな発見であり、一つの理想かもしれません。
スイスのロレックスラーニングセンターにも訪れたときに、建築の個性は強いもののそこに訪れる人はみんな思いおもいの場所を発見して、原っぱのように建築を使い倒していて自然の自由があり、その点ではやっぱり同じ哲学なんだなぁとしみじみ思うのです。

以前、篠原一男の代々木上原の住宅を訪れた際には建築家の力強さが全面に出たものでした。そこには衝突から生まれる、生きる強さがありました。篠原さんの住宅は、住宅ではなく「住処」とでも呼びたくなる野生的なものがあります。

施主に私にはこういう哲学がありますと話しながらつくることはないと思いますが、どんな哲学の元でつくるかはやはりいいものをつくるためには必要だと思います。

妹島さんの住宅には現代をポジティブに捉え前進していく力強さが感じられ、篠原さんの住宅には時代を批評する力強さを感じます。どちらの名作にも言えることが、建築家が言わずとも空間が自ずと語りかけてくることのような気がします。

二川幸夫も生前にここに訪れたそうです。そのときどんな感想を語ったのかとても気になりますね。
大きな時代の尺度でこれをどう見られたのか。

最後に、この住宅で使われているタイルは株式会社スカラのもので、今回の訪問でも多くの話を伺うことができ感謝です。
設計の際は、建築家のわがままを親身になって聞いてくれると思います。
素材感もとても気持ちのいいタイルで超オススメです。
この機会に使ってみては?

また、このような機会を与えて下さったオーナー様、関係者の皆様、本当にありがとうございました!
素敵な空間で美味しい食事。僕にとってこれ以上の贅沢は思いつきません。

徳田直之


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by tokup_nao | 2018-10-27 18:11 | 建築 | Trackback | Comments(0)