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建築設計事務所の仕事の様子と雑談を綴っています。


by 徳田直之 (Naoyuki Tokuda)
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テマヒマ展

テマヒマ展_d0086747_17472057.jpg


久しぶりに21に行ってみたら面を食らってしまった。
なんとなく感じていたことが、体験を通して少しずつ確信へと向い始めている。

建物をつくる人として、少なからずも社会に何かしらの影響を与える。
だから、3.11以降に何かしらの意識を変えていかんなと思ってるし、
ほっといても変わらざるを得ないことも多々あると思う。

そこで、大きく日本を俯瞰してみると、ゆっくりと着実に変化が起きてるように感じる。
その一つが東京の一極集中的な考えが、緩やかに分散し始めていること。

渋谷ヒカリエに入っているd&departmentに行ったとき、
d&departmentという自社のブランドの看板を大げさに主張していないところが、印象的であった。
あくまで、日本各地から集めてきた「もの」が主役であり、
セレクトショップというかっこよさはなく、ただみんな気軽に立ち寄れる蚤の市にでもきているようだった。

ものと人がよりダイレクトに繋がり、その繋がりを通してこのものの生産地や作る人はどういったものなのか、
丁寧に説明を読んで吟味したくなる。
消費者というよりも使用者のような、「もの」を通して人と人が繋がる感じがあった。
それはもはや「もの」を通り越して「こと」を通してのつながりではないだろうか。
かならず「もの」が生まれる過程には誰かが「こと」を起こす必要がある。
その「こと」にまで入り込んだものの本質に切り込む理想的な商いが行われる期待が持てるものであった。

100円ショップのような、大量生産&大量消費はもうエコじゃないしカッコ悪いゾ。
って考え方が世間に広がっていってほしいと思う。
それが直接的に3.11をきっかけにとは言わないにしても、
それも1つの大きなきっかけになっていくように感じる。
多くのものが一瞬にして流されてしまって、
ものに内在する価値の本質がより重要ではないのか、と気づきはじめるのではないか。
もし、「もの」から「こと」への転換が実行されれば、人間味の溢れるより豊かなものが生まれてきそうだ。

また、所有することよりも使うことにものの価値を見出していければ、
そのものを失ってしまっても代償は小さくて済むし、生活が楽しくなるはずだ。
また、使いつづけるものには限界があるから、所有するものも少なくて済む。
これからは、自分が厳選していいと思うものだけを持つ。そんな時代になっていく。
だから自ずと、ものに求められる品質やデザイン力は高くなっていくし、それが生まれる過程も重要視されていく。
それと同時に、負のスパイラルでできているようなものは厳しく淘汰されていく。

働き方にしても、ノマドワーカーが注目されていたり、
新しい働き方という言葉が世間を賑わせているのをみていると、
東京の大企業の一極集中から、次第に分散してきている。
本当の意味での多様性が社会にやっと現れてきたのではないだろうか。
日本全体の均質化というと、ちょっと冷たい印象だけど、
ここで目指すものは全体がもっと個性豊かな均質状態になっていくことだろう。

今の調子だと、2050年になるとは65歳以上人口が四割に達する。
そんな社会になったらどうなるか。先行きの見えない財政のために、
一軒家の買い物が減少していきその代わりに、
狭い場所でいいものを少なく所有することに関心が集まるのかもしれない。
人口推移の変化から見ても、ものに対する意識は今とは全く違うものになっていくはず。

また世界のグローバル化が進みきった先にどうなるか。
ものづくりや人が世界を流動すればするほど、
逆に自分の国の愛国心はより強化されていくと思う。
留学した友人が口を揃えていうことが「自分が日本人であることを痛感した」ということ。
世界遺産がより強固に意識されたり、地方が脚光を浴びたり、
その背景には実はよくないものとされたいたグローバル化の波が逆にショック療法的に働いて、
それぞれの文化の強度を強める働きがあるように思える。
その1つの現れとして、「もの」の再評価が行われようとしている。


トドメがこの21のテマヒマ展であった。
東北の様々な地に足を運んで、同じ空気を吸いながら、話して、食べて、心を動かす。
映像の紹介では説明が全くなく、ただその場を経験しているような、
職人が生み出す未知の領域には永遠に触れられないけれど、
それがそのままずっとあってほしいと思わせるような、感慨深いものがあった。

映像でそれぞれの現場を経験した後の、実際にみるものたちは、
とてもリアルに訴えかけてきて、ゾクゾクさせるものがった。
「もの」が「こと」を通して豊かなイメージと共に創作されていくことが確認できる、理想的なもののあり方を提示してくれた。
それは東京の雑踏の中で忘れかけていた、ものの力を思い出させてくれる展示でもあった。


あらゆるものが、それを創る人のイメージと共にあれば、もっと楽しく美しいもので日常が溢れていくはずだ。
そこにはもちろん言うまでもなく、テマヒマを惜しまないことが大事。
そういうことを、理解せずとも当たり前に生活の中にあるような世の中に早くなってほしい。





「テマヒマ展〈東北の食と住〉」
佐藤卓さん×深澤直人さんインタビュー

by tokup_nao | 2012-06-28 01:51 | 美術 | Trackback | Comments(0)