心の眼

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今年の2月25日に亡くなってしまった稲越功一の、生前最後の写真展に行ってきた。

村上春樹は「稲越功一の写真は、僕の中にあるような『通り過ぎていった風景』の数々を思い起こさせる。僕はページを繰りながら、懐かしさのようなものさえ感じることができる。もちろん僕はこれらの写真にある風景を自分の目で見たわけではない。でもそれらの風景は、不思議に僕の記憶を揺り動かすことになる。」と述べる。

稲越の写真は、日常で安らかに気を抜いている瞬間に目の前にフッと入り込んでいた風景が形になったようなものだった。そこに吹いたその風が、またそこの温度や湿度さえもが、ひっくるめて貴重なそこの場所の体験だったようなものが写真になっている。その湿気を帯びた写真は爽やかでないにしても、近くに置きたくなるような憎くいとしい気持ちにさせる。春樹の言う懐かしさという言葉以上に、何かこの写真には得体の知れない柔軟性とそこに在るのかよくわからないひた向きな力を感じる。稲越にとって、最後になってしまった「まだ見ぬ中国」のシリーズでは、その優しく広大な力の源泉を探っているようだ。探検はまだまだ続くのだ。


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by tokup_nao | 2009-10-07 00:46 | 美術 | Comments(0)


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